「小川の首、切ったりしないでくだせえよ。ああなるまで育てるのはたいへんなんだから。ねえ、アッコさん、お願いだ」
頭を下げた。
「わかった。悪いようにはしないから」
明希子は微笑んだ。
「でも小川君、センさんによく話したね。わたしには話してくれなかったのに。きっとセンさん、信頼があるんだね」
「そんなもなぁ、あるもんか」
仙田が捨て鉢なような笑みを浮かべた。
「クズさんなら相談にも乗れるんだろうけど、おれなんか、いっしょに飲むくらいしかできねえもんな。それに……」
仙田がまたぽりぽりと顎をかいた。
「それに、あいつもひねくれたとこあるからな。似たもんどうし、酔いも手伝ってつい口がなめらかになったんじゃないかね」
「ありがと、センさん」
明希子は仙田の眼の下の隈を見て言った。
「それから、あんまり飲みすぎないでね」
仙田がぷいと顔をそむけた。
「それじゃ」
工場に向かって歩いていった。
明希子は大きく深呼吸した。
なんということだ、と思った。
明希子も事務所に向かって重い足取りで歩きはじめた。
門から入ってくる男の姿が眼に入った。
明希子は立ち止まった。
高柳だった
SPECIAL THANKS
日本電鍍工業株式会社・伊藤麻美社長
EMIDAS magazine Vol.17 2007 掲載
※ この作品はフィクションであり、登場する人物、機関、団体等は、実在のものとは関係ありません