成長企業の経営戦略

株式会社齋鐵 代表取締役社長 齋藤 孝之輔 氏

株式会社齋鐵 代表取締役社長 齋藤 孝之輔 氏

赤い地面

パレットに乗ったプレス金型が、自動倉庫に格納され天井高く積み上げられている。まるで、すぐ近くを流れる信濃川の水門のように。
「単発プレスラインでは1日に2、30品目を生産します。1週間で100品目以上。平均3~4工程なのでおよそ400型が必要になるわけです」
パレットが築いた長大なラックを見上げながら、株式会社齋鐵代表取締役社長・齋藤孝之輔氏が言った。整然と並ぶパレットを、工場内を行き交うフォークリフトがプレス機械まで運んでゆく。
1929年、齋藤氏の祖父・鐵之助氏が新潟県三条で、包丁、はさみ、爪切り、のこぎりなどの刃物類やタンス金具などの家庭金物の製造を始めた。6年後には創業100年を迎える社名の齋鐵は屋号である。
刃物は地場産業である。もともと三条は信濃川船運が盛んな物資の集積場であり反物等を扱う商人の町であったが、着物が売れなくなって衰退。金づち、のみ、のこぎりなどの金物に活路を見いだしたのだった。
「三条の産業革命ですね」
地下水を消雪に用いる三条の町は、地面が赤っぽい色をしている。井水が鉄分を多く含んでいるためである。そしてこの町に、金物は地場産業としてよく馴染んだ。

単発部品からASSY へ

戦後は、齋藤氏の父・實氏が農機具の部品を扱うなど、さらに製造品目を広げていく。そんな中、同社は大きな転換点を迎える。1958年、市内にある内田製作所(現株式会社コロナ)と取引を開始したのだ。同社は暖房機器を中心とした総合住宅設備メーカーである。
取引の開始から年月が流れていくと、単品の部品注文からアッセンブリーでの注文が増えていく。「お客様としては、伝票1枚で全部揃えてほしいわけですよ」
これが齋鐵の技術力を磨いていった。1964年、株式会社齋鐵工場に法人組織化、1969年に、實氏が2代目社長に就任している。

カイゼンを学ぶ

「生まれた時から、継げよと言われていた」という齋藤氏は、大学を卒業すると、自動車のサスペンションメーカーに就職する。
「良い悪いは別として、家業を継ぐという目的を持っていた私は、社会人になるにあたって普通に就職をした同級生たちとはまったく意識が違うことに気がつきました」
大望を抱いて入社した齋藤氏だったが、職場では苦労した。I E課に配属されたのだが、「どうせ腰掛けなんだろ」とすげなくされてしまう。そんな中で、ひとりだけ親身になってくれる先輩がいた。I EとはIndustrial Engineering (経営工学)の略で、製造現場のムダを排除しQCDSの向上を目指す部署である。実習で、トヨタ生産方式による2日間カイゼンを体験した際には、熱血指導してくれた。「出会いに感謝ですね」と齋藤氏がしみじみ振り返る。
その会社で3年間、株式会社コロナで1年間の修行を終え、1996年に齋鐵入社。バブル崩壊後で、先の自動車会社で配属された工場では、齋藤氏が入社した年に500名いた社員が、3年後には一時的に半減したほどである。

管理状態を改める

齋鐵に入社後は、現場から始まり仕事全般を経験したわけだが、さまざまなアラが目につきだした。
まず、入社する2年前に新築した工場である。
「レイアウトに口出ししていないので、あとから物申すようですが、採光も風の通りもモノの流れもよくない」
ちなみに夏場、工場内を冷やすため、最近になって井水式クーラーを採用したそうだ。三条の井水を、ここでも有効活用している。
そうしてなによりもテコ入れしたのは、社の管理状態だ。5Sや安全対策、有給休暇などの労務管理である。
現場においてはカイゼンを実施したことは、言うまでもない。

受け仕事のパターンづくり

2004年、齋藤氏は代表取締役社長に就任した。 「入社当初は、自社商品をつくって、ブランディングも――などと考えたりもしました。しかし、うちの強みを改めて見直した時、一番は受け仕事を完璧に行うことだと思ったのです。完璧な受注生産の実施ということですね」
パーツサプライヤーとしての経験、そして豊富なノウハウ。 モノづくりの集積地、燕三条における強力なネットワーク。 これらを最大限に活用し、多様なニーズを最適にコーディネートをすることが、最も得意とするところだと分かった。社内技術とネットワークを活用し、 表面処理 → 熱処理 →切削加工 → 大型油圧プレス → プレス →溶接 → 仕上げ洗浄 → 組み立て → 出荷という工程をワンストップで行い、コスト削減と確かな品質を実現するのだ。
そのためには、図面と作業指示書を読み込み、不良の履歴をつくってカイゼンを繰り返した。
「完全なる受注生産を行うためには、対応力が必要です。プレス製造にしても、毎日毎日違ったものを30品目つくっていくうえで、大切なのは見極めなのです。リピート品は回転するので、すぐに出て行くから適正在庫まではつくっておいてよい。たまにしか出ていかないものは、つくりすぎると長期在庫を抱えることになる。とはいえ、必要な時に必要なだけしかつくらないとコストが高くなってしまう。技術力はもちろんですが、なにをどれくらいつくるかの仕組みづくりによって受け仕事のパターンができました」
同社がつくり上げたこの仕組みが、多品種で高品質、大ロット、小ロットというパズルのような仕事に対応することを可能にした。
「根幹となる受注先は冷暖房機で、気候変動の影響を受けます。1社依存せず、上乗せすることで売上規模の倍増を目指したい」
仕事の幅を広げようと、県内ではいち早くロボットプレスラインも導入した。
リーマンショックなど多少の影響はあったが、ここ10年はほぼ安定して推移。コロナ禍においても、同社製造のロースター機を使用する焼肉店は頑張り、業務用洗濯機部品のコインランドリーは除菌殺菌面からも安定成長した。航空機部品については旅行者がなく滞ったが、今後の伸びが期待される。
「“誠実と和”を基本理念に、明日のモノづくりを切り開いていきます」

株式会社齋鐵


取材・文:上野 歩 / 撮影:阿部 隆


株式会社齋鐵

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