「売り上げが前年比で五〇パーセントダウンしています。一方で借入金が五億あります。売り上げよりも大きな借り入れがあるんです」
顧問税理士の落合から伝えられた花丘製作所の経営状況は予想以上に思わしくないものだった。
「よくない……ですね」
明希子は唖然として言った。そうして、そのすぐあとで、
「ううん、よくないどころじゃない。“さあ、がんばって、なんとかしないと!”っていう状況でもすでにないような気がしますけど」
自嘲するような言葉が口をついて出た。
落合は相変わらず眼鏡の奥で柔和な笑みを浮かべていた。それは、深刻な病状にあることを知ってしまった患者の不安をなだめるように。
「落合先生、いま、うちにいちばん必要なものはなんでしょう?」
「それはもちろんお金ですよ、アッコさん。資金です」
「お金……」
落合がうなずいた。
「そうです。お金です」
落合の物腰はあくまでもソフトだった。まるで大学教授のような温厚で知的な風貌。実際に彼は大学でも教鞭をとっているのだという。
「あるいは――」
と言って、落合が窓の外を見た。
明希子もそちらに視線を向ける。ふたりは花丘製作所の社長室で話していた。主なき部屋で。
晩秋というよりも初冬といった感じの、空気の冷たい午前だった。けれど、空は晴れ渡っていて、明るい陽ざしのなかをブルーの作業服姿の社員が階下の倉庫から工場に向かって台車を押していった。胸に濃紺の糸で〔HANAOKA〕と刺繍されたブルーの作業服。花丘製作所の作業服。
「――あるいは」
ともういちど落合が言った。