結局、誠一は九日間ICUにいた。
「でも、お父さんたら、なにも覚えていないっていうのよ」
と静江が言うと、
「はっきり……はな」
と誠一が言った。
誠一は一般病棟の個室に移っていた。
「三日目に脳のカテーテルをしたのは?」
「いや……」
会社帰りに病院に立ち寄った明希子のまえで、誠一と静江がそんな会話を交わしている。
「わたしと話したのも覚えていないの?」
明希子は言った。
「………」
誠一の表情がなにかを思い出そうとするようなものになった。
「でも、しゃべっていたわよ、“アッコ、頭痛かったよ”って」
「おぼえて……ないなあ」
言葉はおぼつかないが、誠一は元気をとりもどしつつあるように見えた。明希子は少し安心した。
「でね、アッコちゃん、考えてくれた?」
静江が言った。
「なあに?」
「ほら、あの日話したこと」
「なんだっけ?」
「会社を継ぐって話」
「えー!」