第1話 工場のにおい

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結局、誠一は九日間ICUにいた。

「でも、お父さんたら、なにも覚えていないっていうのよ」

と静江が言うと、

「はっきり……はな」

と誠一が言った。

誠一は一般病棟の個室に移っていた。

「三日目に脳のカテーテルをしたのは?」

「いや……」

会社帰りに病院に立ち寄った明希子のまえで、誠一と静江がそんな会話を交わしている。

「わたしと話したのも覚えていないの?」

明希子は言った。

「………」

誠一の表情がなにかを思い出そうとするようなものになった。

「でも、しゃべっていたわよ、“アッコ、頭痛かったよ”って」

「おぼえて……ないなあ」

言葉はおぼつかないが、誠一は元気をとりもどしつつあるように見えた。明希子は少し安心した。

「でね、アッコちゃん、考えてくれた?」

静江が言った。

「なあに?」

「ほら、あの日話したこと」

「なんだっけ?」

「会社を継ぐって話」

「えー!」

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